【第五回】尖閣諸島に迫る中国のサラミ戦術 日本の防衛力と国際発信力が問われるとき

中国の情報戦略と求められる日本の発信力

中国は、尖閣諸島周辺での活動を撮影し、中国中央電視台(CCTV)を通じて世界中に発信しています。

このような情報戦略により、「尖閣諸島は中国の領土である」という誤った主張を国際社会に浸透させようとしているのです。海外のホテルや都市部の施設でもCCTVが視聴可能であり、誤ったメッセージが広がってしまう懸念があります。

最近では、中国のヘリコプターが日本の領海を飛行する事案が発生しました。中国側は「自国の領土内での正当な対応」と主張し、日本に抗議する姿勢も見せています。

こうした一方的な情報発信に対し、日本は冷静かつ明確に事実を発信し、国際社会に正しい認識を広める必要があります。

じわじわと迫る中国の「サラミ戦術」の脅威

中国による尖閣諸島への関与は、「サラミ戦術」と呼ばれる手法に基づいています。

まるでサラミを薄く切るように、少しずつ侵出を進め、最初に漁船、次に警備船、さらには上陸の試みへと段階を踏んできました。この動きは10年以上にわたり続けられており、いまでは中国の公船がほぼ毎日のように尖閣諸島周辺に姿を現しています。

最近では、日本の漁船を追い回す行為や、ヘリコプターによる飛行など、より一層危険な事態に発展しています。今後、実際の上陸や実効支配の動きに発展する可能性も否定できません。

こうした中で、政府としても島の安全確保に向けて早急な対策が求められていると考えています。

尖閣を守る鍵は「防衛の強化」と「国際発信力」

現在、尖閣諸島周辺の警備は海上保安庁が担っていますが、空からの侵入や上陸のリスクには限界があります。中国側の行動がエスカレートする中、島内への警備体制強化も検討すべき段階に来ているのではないでしょうか。同時に、日本の立場を国際社会に理解してもらうための取り組みも重要です。

その一つとして、海洋環境や自然生態系を調査する国際調査団の設置を提案したいと考えています。

日本が中心となって各国の専門家と協力し、科学的かつ平和的に尖閣諸島の実態を明らかにすることで、共通の課題として世界に向けて発信することができると考えています。

「小さな島」では済まされない――尖閣を守る意味と、私たちができること

尖閣諸島の問題については、「小さな島なのだから譲ってしまえばいいのではないか」「中国と平和的関係を保つために妥協してもよいのではないか」といったご意見も耳にします。

しかし、尖閣諸島を手放すことは、東シナ海全体が中国海軍の行動範囲となることを意味し、さらには台湾への進攻が加速する可能性もあります。この島を守ることは、東アジアの平和を維持し、日本の安全保障に直結する極めて重要な課題です。

私自身、この島の防衛が地域の安定に資するものと強く認識しています。

皆様にお願いしたいのは、まずこの島の現状と背景を知っていただくこと、そして「この島を守る」という意思を共にしていただくことです。とくに、国際的な海洋調査や生態系調査の計画に対して、応援の声やご支援をお寄せいただければ幸いです。

この海を守るために、どうか皆さまの力をお貸しください。

この記事を書いた人

山田 ヨシヒコ

学習院大学経済学部を卒業後、東洋信託銀行㈱にて都市開発および債券トレーディングを担当。
その後、財団法人日本船舶振興会に勤務し、海洋問題や造船技術開発を担当。2009年に東海大学教授に就任し、2019年から2023年まで、東海大学学長補佐・静岡キャンパス長を務める。国土交通省や東京都をはじめ、各機関において政策アドバイザーを歴任。