【第八回】環境保全と安全保障の一体化を目指して

自然の宝庫だった尖閣諸島

かつて「紫の島」と呼ばれた尖閣諸島。その理由は、1月になると島全体を彩った尖閣つつじの紫の花でした。かつては豊かな草木に覆われ、緑は島の約90%を占めていました。
しかし現在、その姿は大きく変わりました。尖閣つつじは姿を消し、草木も減少。2023年の調査では緑の割合が65%以下に落ち込みました。
背景には、島に放たれた2頭のヤギの異常繁殖があり、現在は500〜1000頭とも言われるヤギが島中の草を食い尽くしているのです。

消えゆく希少種と水の危機

植物が減ると、土壌が水を蓄える力も弱まり、水資源の減少が進みます。
これにより、島にしかいない尖閣モグラセンカクサワガニといった固有種の生息も危ぶまれる状況です。
こうした状況を正確に把握するには、現地に上陸しての環境調査が不可欠です。

私たちのグループや石垣市は繰り返し政府に調査許可を求めていますが、未だに実現していません。

黒潮の変化と海洋調査の必要性

尖閣諸島は黒潮の源流域に位置しており、その周辺の海洋調査は日本全体の漁業資源と海流の変動予測にとって重要な意味を持ちます。
近年、海水温の上昇と海流の強まりにより、魚の分布も変化しています。
これを正確に把握するためにも、尖閣諸島周辺での海水温・塩分濃度などのデータ収集は不可欠です。

重武装する中国海警船の存在

しかし、この地域には毎日のように中国海警船が現れています。しかも、それらは76ミリ速射砲や機関砲といった重武装をしており、民間の調査船が安全に活動するのは極めて困難です。

こうした現状の中で、国による本格的な調査と安全確保が求められています。

国が果たすべき責任とは

尖閣諸島は、自然環境の宝庫であり、海洋国家・日本にとって極めて重要な場所です。
いま、調査と保全、そして安全確保に向けた国の責任ある対応が問われています。

自然を守ることと、安全保障を守ることは両立できる。

その実現のために、私たちは声を上げ続けます。

この記事を書いた人

山田 ヨシヒコ

学習院大学経済学部を卒業後、東洋信託銀行㈱にて都市開発および債券トレーディングを担当。
その後、財団法人日本船舶振興会に勤務し、海洋問題や造船技術開発を担当。2009年に東海大学教授に就任し、2019年から2023年まで、東海大学学長補佐・静岡キャンパス長を務める。国土交通省や東京都をはじめ、各機関において政策アドバイザーを歴任。