【第11回】世界中の研究者を惹きつける尖閣諸島の自然

アホウドリ舞い戻った奇跡の島

一時は絶滅したとまで言われていたアホウドリが、尖閣諸島に戻ってきています。

尖閣諸島では、アホウドリをはじめとした多くの海鳥が確認されており、南方系と北方系、両方の渡り鳥が交差するという世界でも珍しい現象が起きているのです。

私自身、海洋環境の研究を通じてさまざまな離島を訪れてきましたが、これほどまでに多様な鳥類が観測できる場所は他にありません。専門家によれば、鳥類研究者なら誰もが「一生に一度は調査したい」と憧れる、夢のようなフィールドだそうです。

手つかずの自然が残された島

尖閣諸島には、センカクモグラやセンカクサワガニといった固有種の生物が生息しており、鳥類だけでなく陸上の生態系も豊かです。また、黒潮の影響を受けるこの海域は、海流や気象変動の長期的な観測地点としても重要です。

加えて、数十年にわたり人の立ち入りがほとんどないという状況そのものが、尖閣諸島を貴重な空間にしています。人為的な影響を受けていない自然環境が残されている場所は、世界的にも極めて限られていからです。その意味で、尖閣諸島は原始の生態系を調査・記録できる数少ない場所として、かけがえのない価値を持っているのです。

国境を越えた研究者たちの熱い視線

私はこれまで、国内外の研究者たちと多くの議論を交わしてきました。その中で、「尖閣諸島での調査が可能であればぜひ参加したい」という声を何度も耳にしています。特に海鳥を専門とする研究者や、気候変動を追う海洋学者にとって、この島の価値は非常に高いと評価されています。また、海外のメディアからも「尖閣諸島の現状を直接見て取材したい」という問い合わせが複数届いいます。尖閣の自然をめぐる問題は、もはや日本だけの課題ではなく、世界が注目する共通の関心事となっているのです。

日本が主導する国際協力のモデルに

このように尖閣諸島には、国境を越えて研究者が集まる可能性と意義があります。だからこそ、日本が中心となって調査体制を整えることが重要です。

調査を希望する海外の研究者には、正規の手続きを踏み、石垣島を起点として、日本の研究チームと共に安全に調査活動を行ってもらう。そのような透明で開かれた協力体制を築くことで、国際的な信頼を得ると同時に、科学の発展にも大きく貢献できるはずです。

尖閣諸島の豊かな自然を守り、活かし、次の世代につなげていく。そのためにも、今こそ国際連携のあり方を見直すときです。

この記事を書いた人

山田 ヨシヒコ

学習院大学経済学部を卒業後、東洋信託銀行㈱にて都市開発および債券トレーディングを担当。
その後、財団法人日本船舶振興会に勤務し、海洋問題や造船技術開発を担当。2009年に東海大学教授に就任し、2019年から2023年まで、東海大学学長補佐・静岡キャンパス長を務める。国土交通省や東京都をはじめ、各機関において政策アドバイザーを歴任。